映画賞

やまもと工藝 きるものがたり 

山本秀司(和裁士:袈裟、茶入・茶碗袋、和装、仕立師)が主宰する和裁教室の物語。やまもと工藝の徒然
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P94.P95 和裁士 山本秀司の沖縄染織紀行 南の風に呼ばれて

前に報告したコレこれの時の沖縄旅行記の4回連載のうちの第3回です。
 長いので時間のある時にでも読んで見てください。
(第1回第2回)


南の風に呼ばれて 第3回 「新しい芭蕉布の誕生を期待して」

平良敏子さんと美恵子さんとの出会いを果たした翌日は、
喜如嘉へ向かうことになっていました。
バスで1〜2時間はかかるかなと思案していると、
宿のオジイが「車で送っていくよ」と声をかけてくれました。
ペンションは息子さん夫婦でやっておられ、後で奥様に聞いたのですが、
このオジイの反応に息子さんはとても驚いていたのだそうです。
「親父が人を車で送っていくなんか見たことあるか。
俺も送ってもらったことないのに」と。

喜如嘉までの道中、立ち寄った店でソーキそばを食べながら、
オジイから昔話を聞かせていただきました。これにも驚くことばかり。
何とオジイは、平良敏子さんの息子さんの面倒をみたことが
あるというのです。そして「喜如嘉へ行くのは何十年ぶりかな」とのこと。
旅の答えがここにあるのかなぁと感じます。
湾岸を走る日差しがまぶしい。日差しが海に反射し、
雲の下側をエメラルドグリーンに染めています。
そんな車窓の風景を眺めながら、
芭蕉布会館にある平良敏子さんの工房にたどり着きました。

工房の中では、作り手の皆さんがさまざまな工程を黙々とこなしていました。
その中をオジイが先頭に立って入っていく。
「皆さーん、頑張ってますねー。沖縄の文化のために、
この山本さんをお連れしたから、よろしくお願いしますよー」。
エッと少し恥ずかしい。すると作り手の一人がこちらを振り向く。
「あれ、備瀬崎のオジイではないですか!何で?」。
一同がオジイを認めると、一斉に笑いが起こる。
オジイが、どんどんと道をつくってくれるのでした。
私はただただ感謝して後をついていくだけ。

工房の2階で、平良美恵子さんと再会。
完成した芭蕉布を見せていただきました。
「屈託のない感想を言ってね」と言われたのですが、
完成度の高いものだけを選んで出しているのではないかと思うほど、
どれも質が非常に良いのです。
ひと口に芭蕉布と言っても、
さまざまな出来のものが市場には出回っています。
その中で、組合を組織してまとめていくのは、さぞかし大変なことだろうと、
平良工房の芭蕉布を前にその苦労が察せられたのでした。

私がかねてから、きものという形をした衣には、
布を織る工程で“綾織り”を取り入れるといいと提唱しています。
その可能性を芭蕉布で探れないものかと、
美恵子さんに提案しようと思っていました。
もし実現すれば、布の柔らかい動きが表現され、シワになりづらく、
しかも強度のある芭蕉布ができる、というのが私の考えでした。
つまり、まったく新しい芭蕉布が誕生するかもしれないということです。

そのサンプルとして、群馬の機屋さんに織っていただいた
生絹の生地を持参してきていました。
この生地は綾織りではなく平織りの変形。
平織りではあっても綾織りの特性を備えた組織になっています。
美恵子さんに見せると、
「おもしろい!すぐにでもこの組織を芭蕉布で試してみたい」
という反応が返ってきました。
しかし現状は、無形文化財である芭蕉布を作る技法を維持・管理し、
伝承することで手一杯とのこと。
残念ながら、今すぐには無理という結論になりました。
ただ、美恵子さんの胸中には、工房を巣立っていった若手からでも
チャレンジさせてみたいという気持ちが少なからずあるようです。
まったく新しい芭蕉布が誕生する日を期待して、工房を後にしたのでした。


  第4回は、「季刊きもの」177号 21年8月下旬発売予定です
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